心の時代|Susumu Kinoshita

心の時代|Susumu Kinoshita

心の時代|Susumu Kinoshita

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三歳の時、火事に遭う。台所の不始末による出火で、他家に類焼してそこに住めなくなり、呉羽山麓に移り住んだのである。私のイメージは粗末な竹藪の番小屋の家だった。が、案外そうではなかったらしい。この頃は三度の食事にも事欠く極貧生活のただ中。母と兄は家出を繰り返す一家離散状態で、荒廃した状況故に、家の建物もそうであるかの如く思いこんだいたようだ。何より悲しかったのは、弟三郎の死だった。母によると、「ご飯、なんない!」と口癖のように言っていたらしい。それから間もなく、わずか三歳で餓死同然に逝った。枯れ枝のような真っ白な遺体を前に、ろうそくの灯に浮かぶ父の背は、幽かに揺らぎ一晩座してまんじりともしない。翌日、父は火葬場までの山道を、弟を抱いて歩き荼毘にふしたのである。

心の時代/古里・弟の死
 
 
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木下晋 心の時代
仕様:H188×W122mm
モノクロ、88 ページ、発行部数300部
デザイン:大西隆介
定価:1,000円+税
2006年から北陸中日新聞にて1年間掲載された連載記事「心の時代」を再編集。


木下晋/Susumu Kinoshita
1947年富山県生まれ、東京都在住。16歳のとき、自由美術協会展に最年少で初入選し注目を浴びる。画家の麻生三郎、美術評論家の瀧口修造、本間正義らの知遇を得て、全国各地とパリ、ニューヨークなどで個展やグループ展を開く。1980年に鉛筆によるモノクロームの新たな表現方法に取り組み、10Hから10Bの22段階の濃淡を駆使して精緻な表現で、実母や最後の瞽女と言われた小林ハル、元ハンセン病患者の詩人の桜井哲夫などをモデルとして作品を発表し、モノクロームの光と影による圧倒的な表現で現代絵画に新たな領域を確立する。画家として活躍するかたわら、東京大学工学部建築学科(2008年まで)、新潟薬科大学で非常勤講師(2011年まで)を務め、現在は武蔵野美術大学で客員教授、金沢美術工芸大学で大学院博士課程専任教授を努める。パブリックコレクションとして、富山県立近代美術館、宮城県美術館、湯殿山注連寺、目黒美術館、富山県教育委員会、信濃デッサン館、本間美術館、致道 博物館、町立久万美術館、池田20世紀美術館、新潟市美術館、高知県立美術館、ベネッセアートサイト直島、新潟県立万代島美術館、佐喜間美術館などに作品が収蔵されている。2012年4月、木下晋展「祈りの心」が平塚市美術館で開催され、砺波市美術館(2012年7月)、足利市立美術館(2012年9月)を巡回。
 

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